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私が帰ると、彼が帰ってきていた。
彼は毎日夜遅くまで撮影しているときがあるので
顔を合わせることは、珍しかった。
「愛莉、おかえり!!」
「たっ…ただいいま…」
なんだか、機嫌がよかった。
いいことでもあったのかな。そう思っていると彼は急に切り出した。
「愛莉!ようやくチャンスが巡ってきたんだ!!」
「なにかあったの?」
「こないだ話したじゃん!例のコンクールの話」
「うん、最終選考まで残ったんでしょ?」
「俺の写真、なんかお偉いさんの目に止まったみたいでさ!
入賞したら個展を開いた時にはスポンサーとかつけるのに
協力するって言って貰えた!!プロカメラマンとしての俺を世間に認めて貰えるチャンスが
巡ってきたんだ!!」
カメラを念入りに手入れしながら、自慢げに語る彼の瞳はきらきら輝いていた。
「へ、へぇ~よかったね。チャンスじゃん!」
「だろ~?で、あのさ…」
私は生き生きと写真のことを語る彼をぼんやりと見つめていた。
「…なんだよ。愛莉、聞いてる?」
「へ?うん、聞いてる、聞いてる」
「聞いてなかったよ。なんか変だよ、どうしたのボーっとして」
「なんでもないの。ご飯の支度しちゃうね」
そういうと私は台所で夕飯の支度を始めた。
私はそばにいちゃいけないのかもしれない。
なぜだかこの頃そう思うことが増えた。
彼のことが大好き。
それは本当。
でも、それだけでやっていける程、世の中は甘くないと思う。
私は、彼が仕事に出るタイミングを見計らい、自分の荷物を
詰めた。
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