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「おかえり。寒かったでしょ? お風呂温めておいたからはいって」
「あ、ありがとう」
扉を開けた瞬間のお母さんの声は完全に予想外だった。
そしてまた、なぞの涙が溢れそうになる。いったいこれは何なのだろうか。
美波という女の子について尋ねようかとも思ったが、父が帰ってからにしようかと思った。
それに、今は冷えた体を温めることのほうが大事である。
その後、風呂から上がった僕はパソコンを開いた。まだ携帯を買ってもらっていない俺の連絡手段はこのパソコンだけだ。
とは言うものの、話すのはクラスの男子二、三人だけで、話す内容もたいしたことではない。
フォルダを開いた僕の目に飛び込んできたのは、驚くべきものだった。
受信メールは全部で六件。
うち四件の差出人には早坂美波、と記されていた。
僕の記憶ではこのパソコンには女子のアドレスは登録されていなかったはずだ。
本当に仲の良い男子のアドレスだけを登録しているのだ。
それなのになぜ?
ただ考えていてもらちが明かないので古いものからメールを開く。
一件目は一昨日、内容はどうやら他愛もない話のようだ。二件目は昨日、内容は同じようなもので、三件目と四件目は今日届いていた。
と、まるでこちらがパソコンを開くのを待っていたかのように五件目が届く。「久しぶりに明日、一緒に帰ろう」。
いまどきの女子にしては簡素な文だったが、そんなことよりも僕が疑問に思ったのは「久しぶり」という言葉だ。
一緒に帰った女子のことを忘れることなどありえるのだろうか。
その日、結果的に僕は早坂美波についてなにか聞くことはできず、ただ本人に聞くしかない、という思いを胸に眠りについた。
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