1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう……」
早坂はほんの数秒、歩くのをやめると、笑顔に戻ってとくになんてこともない話を始めた。
その勢いにのまれた僕はその日、様々な疑問を聞くことができずに家に帰ることとなった。
しばらくして、パソコンを開くと、案の定メールが来ていた。開くだけ開いて読みもせずに僕はもう寝るね、とだけ送るとベッドに横たわった。
疲れているのかな。最近、身体の調子がどうにも良くない。
涙は出るし、記憶に大きな抜けがあるように感じられる。何かの病気だろうか。
考えて自分の体を自分で抱いた。
明日こそは聞かなければならない。そう言い聞かせて、俺は目を閉じた。
しかし翌日も、その次の日も僕は結局聞くことができなかった。自分で思っていたよりも僕は行動力がないのかもしれない。
二日間のうちに僕の誕生日も過ぎて、三人でケーキを囲んだ時、また僕は泣きそうになった。
やはりどこかおかしい。自分の体の一部が欠落してしまったようだ。
周囲と自分との意識のずれ、あるいは記憶のずれのようなものが確かに横たわっている。
最初は誕生日が近いから周囲の人みんなでだましているのかもしれないとも考えた。
でも違う。
プレゼントは早坂美波にもらったくらいだ。
メールは何カ月も前から交換している。
皆早坂美波を知っている。
涙は止まらない。
考えられるのは部分的な記憶喪失。
そんなことがあり得るかどうかはわからないが他に説明のしようがない。
それすらも苦し紛れの理由でしかなかったが。
最初のコメントを投稿しよう!