Memory

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 久しぶりの部活だった。 難しいことばかり考えていたから、今日は思いっきり走ってやると決めて教科書をバッグに詰め込む。  僕は進と教室を出た。 進は柄にもなく小説を読んでいるので話しかけづらい。タイトルを盗み見ると『空に落ちる』と書いてあった。なんだか難しそうだ。  校庭ではすでに何人かの生徒が練習の準備をしていた。 曇っているおかげで夏の刺すような日射しは感じられなかった。 快適に練習ができそうである。  すぐに走れるように準備運動していると隣に進が現れた。さすがに本は置いてきたようだ。 「親とか友達とか、大事な人を奪われた人ってどんな気持ちなんだろうな」 「……そりゃあ、悲しいんじゃない?」  僕は心臓を鷲づかみにされたように感じた。 さっきの「空に落ちる」という本はそのような題材を扱っているのだろうか。 そうでなければこのようなことを進が話すとは思えない。 それほどいつもの進の様子からは考えられないことを言っていた。 「やっぱり、そうなのかな……」 「突然どうしたの?」  進は準備運動をやめて前を見て、そしてまた準備運動をし始めた。 若干下を向いている。 「なんでもないよ」  やめとけばよかったという後悔に、どうしてか進は緊張を伴わせているようだ。  準備運動を終えると丁度副部長の女子が小走りでやっきた。 「鈴木先生、今日もさぼり」 「やっぱりか」  副部長は「じゃあ、あとはよろしくね」とだけ言ってどこかへ行ってしまった。 メニューは僕たちで考えなければいけないらしい。
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