Memory

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 走り出すとしばらくの間は何も考えなくてもよかった。 無心にただ走っていたが集団から少し離れたときにふと、疑問が口から出てしまった。 「早坂美波ってさ、」  隣で並走する進がこちらを見たのがわかった。 普段走っている時に僕から話しかけることがないから驚いているのだろうと予想できる。 「可愛いよな、確かに」 「いや、そうじゃなくて」  呆れながらも早坂の顔を思い出す。 確かに、可愛い部類に入ることは間違いなさそうだ。 「前から陸上部に居たっけ?」  進がなかなか答えないものだから隣を見ると、並走していたその 姿が見えなくなっていた。 後ろを見ると目を丸くして僕のことを見つめている。 「お前、それは……一体何のボケだよ」  だがすぐに笑顔になると走って僕によってきて背中をたたいた。 僕意外の人たちにとって早坂美波はどうやらここに居て当たり前の人物であるらしい。  外周を走り終えて水を飲んでいると、早坂が隣にやってきてタオルを渡してきた。 「お疲れ」 「……ありがとう」  お礼を言ってタオルを受け取る。 なんとなくだけれど嗅いだ事のある匂いがした。 「あの、さ……」 「なに?」  聞いてしまおうとして口を開いたその瞬間、どこからか僕のことを呼ぶ声が聞こえてきた。 顧問の鈴木先生だ。 「ごめん、またあとで」 「はーい」  ニコニコしながら間延びした返事をした早坂は手を振っている。 僕はそれに気づかないふりをして顧問の元へ行った。
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