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「あなたはたった十六年しか生きてないじゃない。私は二十年以上長く生きてるのよ? あなたが我慢してよ」
顔がよく見えない。女性だ。一体、誰なんだろうか。俺に何を我慢しろというのか。
「知ってるでしょ?お母さんの過去。だったら助けてくれてもいいじゃない」
お母さん? この人は俺のお母さんなのか?
俺のお母さんはこんなこと言う人じゃなかった。きっとお母さんの話が出ただけだ。
「なによ……返事の一つもしないで。しかも無表情。諒、あなたまるで」
駄目だ。よくわからないけれど、これ以上聞いてはいけない気がする。そうだ、全てが中空に感じられるのはきっと夢だからだ。だとしたら早く目覚めなきゃ。
目の前の女性の口元だけが鮮明に、俺の頭の中に映し出されている。夢だからであろうか。もどかしいほどにゆっくりと口が開く。
そして、自分を俯瞰的に見ているもう一人の自分がいるかのようだ。
これ以上見ることはおろか聞いてはいけないと、そのもう一人の自分が喉も千切れんばかりに叫んでいる。まるで獣だ。
「お」と口が動く。違う。俺はこの言葉を知っている。「お」ではなく、これは「ろ」だ。そして次に紡がれるのきっと「ぼ」。
やっぱりそうだ。この言葉を俺は知っている。
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