Memory

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 人違いということはなさそうだ。 女の子は僕が僕であることを確かに知ったうえで話しかけている。 親しげに話してかけてくるということは、僕はこの人と前から面識があってそこそこ話していたということであろう。 それか、うちの両親のどちらかとこの女の子の両親のどちらかが仲が良いのかもしれない。  雨が降っている今、車に乗せてもらえるというのはとてもありがたい話だっだが、僕はこの人を知らない。 知り合いかもしれないが少なくとも現時点では思い出せていない。 そのような状態で送ってもらうのはいかにも失礼な気がした。 「いや、僕もすぐにお母さんが迎えに来るからいいよ」  もちろん来る予定などはない。 「あれ? 諒のお母さん、月曜日はパートじゃなかった?」 「……今日はたまたま休みなん だ」 「ふーん、明日も休みなんだろうし、二日休みなんて珍しいね」 「た、たまにはそういうこともあるよ」  お母さんの休みを知っているということは、やはり親同士のつながりだ。 それならきっとこの人が誰だかすぐにわかるだろう。  一安心して小さく息を吐くと、昇降口から「美波」と人の名前を呼ぶ声がした。 「はーい」  と、目の前で返事をすると、美波さんはじゃあね、とだけ言って駆け足で昇降口に向かっていった。 最後に名前をきけたのは幸いかもしれない。  雨はやんでいなかったが、背筋を無数の生物が這うように感じて、僕はすぐに学校を出た。 ありがたいことに雨は弱まっている。 しかし、一キロの道のりを走るうちに、僕の体はすっかり冷えてしまっていた。
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