第1章・第2節 平原の戦い

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「ツイてない……」  呟きがそよいだ風に流れて消える。  まさか十人以上の敵に囲まれるなんて……アイツの読みもまだまだだと思う。  ため息ついでに肺の中の空気を入れ替えて、構えた。  敵は十三人、接近戦装備は六人、遠距離戦装備が四人、援護が三人。それぞれが剣や斧、銃や杖など様々な武器を持ち、こちらを威嚇している。防具もそれなりに上等な物のようで、このチームはかなりやりこんでるんだなと実感する。  その中の一人、重そうな鉄鎧を着こんだ男がため息とともに言葉を放つ。 「……おいおい、この人数相手に勝てるつもりかよ」  嘲るような笑いを含んだ声。鉄鎧の男の俺を憐れむような気持ちが他の敵にも伝わったようで、苦笑いのような、けれどやはりどこか嘲笑うような響きのある笑い声が辺りに響く。  この雰囲気から見るに、どうやらあの鉄鎧の男がこのチームのリーダー格のようだ。熊のような体格に乱暴とも取れるぶっきらぼうな言い草からは、RPGとかに出て来る山賊のような印象を受ける。  ただ、山賊なんてジョブは設定にはないわけだから、恐らくこの男のジョブは重戦士系の何かだろう。 「ほんと、ツイてないなぁ、俺」  もう一度そう呟いてから周りの様子を観察した後、さきほど作った構えを解いた。 「そうそう、無理に戦う必要なんてねぇんだよ。大人しく降参すりゃ、そのうち自分とこの陣地で復活するんだからさ。な?」 「それじゃあ」  言いながら、一歩踏み出す。  それを見た敵たちが慌てたように武器を構えた。  予想外のことだったのだろうが、その慌てようときたら……。  そんな敵たちの様子を内心で笑ったつもりだったが、どうやら顔に出ていたようで、一部の敵たちの神経を逆なでしてしまったようだ。  こうして鉄鎧の男に歩み寄る間に文句やら怒号がこれでもかというほど耳に入ってくる。  しかし……よくまぁ、これほど悪態のボキャブラリーがあるものだ、と感心してしまった。  ともあれ、これ以上敵を刺激しないように俺はゆっくりと手を上げた。鉄鎧の男の数歩手前で立ち止まり、諸手を挙げて降参のポーズをして見せるとたったこれだけの動作で一気に敵意が弛緩していくのがわかった。
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