明け方の夢

2/64
前へ
/290ページ
次へ
……気が付いたら、天井が白い部屋にいた。 自分の部屋とは違う、それはすぐに解った。 視野の端に点滴の管。 間違いなく俺の腕に刺さってる。 どうも首が動かないと思ったら、コルセットが巻き付いてるし。 あ、腕にもギブス。 え、足にもギプス? なんだ、この満身創痍。 ぼやっと天井を見つめてみた。 何だか状況がよく解らない。 でも。 『ここは何処?』……状況的に病院 『私は誰?』……新谷 孝太郎 ちゃんと解ってる。 ほら、あんな台詞は安っぽいドラマだけ。 記憶喪失であることを一発で知らしめる、便利な台詞。 まあ、そうそう記憶を失ったりはしないだろうよ。 にしても、何なの、この酷いズタボロ加減は。 よりによって右側ばっかり。 利き腕使えないんじゃ、起き上がれたところで出来ること限られんじゃん。 誰かいないのか? ナースコールでもしてみるか。 てか、身動きとれないし。 「あ、ああああ、あいうえおー」 声は出る。 叫ぶか? 呼んだところで特に用はないけど。 下腹部に違和感……尿意だ。 体こんなになってても、トイレには行きたい。 でもどうやって? あっ、気持ち悪っ!! つか痛ぇっ!!! 強制的に排出される。 カテーテルかよっ!!! 意識がない間に誰が……ああ、もうやだ、婿にいけない。 ごっそりと気力を失ったところで、白衣のお姉さんが現れた。 「あら、意識戻りましたね。 新谷さーん、これ、見えますかー」 掌を顔の上で翳された。 「……はい、見えます」 看護婦は業務用の笑顔で続けた。 「お名前言えますか?」 「新谷孝太郎」 「お誕生日は?」 「8月21日」 「はい、先生呼んできますねー」 看護婦が背を向ける。 その背に必死に訴えた。 「あのっ、カテーテル、いつ外れますか?」 必要なのは解るよ。 でもコイツ、かなりの拷問。 肉体的にも精神的にも、非常に辛い。 「んー、新谷さんが動けるようになったら、かな」 看護婦は至極当然のことをあっさり言い残して、部屋を出ていった。 あー、うん、そうね、そうでしょうね。 ……畜生、すぐに動けるようになってやる。 新谷孝太郎、二十六歳 何故だか俺は、 病院のベッドの上、ぐるぐるに包帯を巻かれ、 腕にも足にもギプスをはめられて、 悲しいかなカテーテルまで挿れられて 目下入院中である。 一体俺に何があったんだ?
/290ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加