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……知らなければこんなに焦がれることもないのに。
抱かれる力強さと体温の心地よさと、与えられる快感を知ってしまった身体は、時にそれ相応の刺激を求める。
何度か彼氏と言える人が居た時期もあったし、もちろん一通り経験はしていた。
一昨年、付き合っていた人と別れてから、恋人と呼べる相手は居ない。
今までの彼らとの行為に満足しなかった訳じゃないと思う。
それなりに快感は得ていたし、その時はそれで良いと思ってた。
ただこうして携帯小説の世界で、強引で濃密な情事を見るにつけ、私の経験はとっても浅いんじゃないかと思い始めたのだ。
彼が来て、もしくは私が彼の部屋に行って。
なんとなく、そんな雰囲気になって。
彼が一度果ててしまえばそれで終わる。
それが普通だと思っていたから。
朝まで、なんて可能なんだろうか。
それすらもわからない。
だからこそ、憧れるのだ。
長らく男性に触れられていない、欲求不満の身体を持て余しているだけと言われればそうかもしれないけれど。
朝まで眠らせてもらえないような、激しい時間を過ごしてみたい。
囚われて、藻掻いても足掻いても解放されない状況に堕とされてみたい。
恥ずかしいけれど、これが今の私の願望なのだ。
……もちろん誰にも言えないけれど。
仕事から帰って、ジャケットを脱いだだけの状態で、もう二時間以上お気に入りの小説を渡り歩いていた。
あーもう、ご飯作るの面倒くさいよ。
お風呂にも入らないと。
あーっ、明日早朝会議だ!
やらなければいけないことは山のようにあるのに、帰宅したらまず小説サイトを開かずにいられない。
秦野 千里
もうすぐ28歳
顔、至って普通
スタイル、もう少し胸がほしかった
特技、これだと自信を持てるものは無し
仕事、そこそこうまくやってるつもり
恋、そう呼べるかどうか解らないけれど、気になる人はいる
特化したものがない代わりに、ひどくマイナス要素になるものもない(はずだ)。
目立ちも霞みもしない、ありふれた一女性。
それが私だ。
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