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出勤すると、まずは給湯室に向かう。
お茶を出す義務はないが、私自身がコーヒーを飲みたくてコーヒーメーカーに豆をセットするためだ。
自販機もあるにはあるが、私のいる階からやたら遠いし、そもそも缶コーヒーは好きじゃない。
カップタイプはデスクに持って帰るまでに気を遣う。
もともとは備品として設置されていたものの、壊れてしまってからコーヒーメーカーが再度設置されることはなかった。
このご時世、削れるものは削る、致し方がないといえばそうだ。
うちの部署に来客があった場合でも、別階の会議室に案内して秘書がコーヒーを運ぶスタイルになってしまい、うちの部署にコーヒーメーカーがほしいと言う提案は却下されてしまった。
悔しいので自費で購入した。
私物を持ち込むなと部長には小言を食らった。
至極もっともな意見で、仕方なく持って帰ろうと諦めていたのだが、その日にたまたま別事業所の社員がやって来て、パーティションで仕切っただけの接客ブースで部長と話し始めた。
社内の人間だし、会議室に移動するほどのことでもないかと思い、黙ってコーヒーをたてた。
すると、余程タイミングがよかったのか、部長はころっと態度を変えた。
結局、毎朝自分の分だけ、なんて言うわけにもいかず、みんなに声をかけてみた。
そんなことが続き、何となくみんなにも習慣付いてしまったらしい。
いつも多目に抽出しておきさえすれば、飲みたい人が飲みたい時に自分で持っていくだけなので、煩わしいことはなにもない。
豆代は飲む人たちから毎月500円徴収すれば、案外賄えるものだ。
足りないときはそれとなく部長がカンパしてくれた。
なんだかんだ、一番恩恵に預かっているのは自分だと気付いたらしい。
今朝は早朝会議があったので、紙コップを準備しておいた。
日頃は個人使用マグカップだが、会議の時くらい楽をしたい。
資料を揃え、プロジェクターの準備をする。
パソコンをつないで画像がホワイトボードに投影されるのを確認し、あとはワゴンにカップとコーヒーの入ったポットを置けば私の仕事は終わりだ。
給湯室に戻り、自分のマグにコーヒーを注ぐと、シンク脇の壁に寄りかかった。
やっぱ昨日は夜更かししすぎた。きついや。
目がしょぼしょぼする。
確実に視力が落ちてると感じるのもしばしば。
んー、自重しなくちゃダメかな。
目を閉じたまま、後ろ頭を壁にくっつけた。
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