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自分の行動を省みる。
眠くて壁に寄りかかった。
目を閉じて、壁に後頭部を押し当てた。
やや上向きになって……。
ああ……。
まあ、確かにシーンがシーンならそうだよね。
オフィスの中でこっそりキス……キュンキュンするポイントだから、想像したら顔がカッと熱くなった。
……見られたのが越智さんだったら良かったのに。
ちょっとだけ不埒なことを考える。
越智靖孝さん。
私の憧れの人。隣の課の圧倒的モテ男。
好き、とは違う。
正直「かっこいいな」っていう第一印象が憧れの大半を占めている。
仕事柄多少話すことはあるけれど、プライベートな部分は何も知らないし、人柄だってよくは解らない。
沢山の女性を泣かしてるとか、二股かけてるとか、良くない噂も聞くけれどあくまで噂だし、あれだけ格好よければ事実でもまあ頷ける。
見目麗しい人を遠くから眺める、それがちょっと楽しいだけ。
……嘘。
邪な考えはあったりする。
どうせなら……妄想が現実になるなら。
越智さんみたいなかっこいい人に啼かされたい。
もし、噂が本当なら、そんな事態になっても後腐れはなさそうだし。
本気になったら泣きを見そうだけど。
越智さんはどんな風に囁くのかな。
百戦錬磨なら、女の融かし方なんて知り尽くしてるだろうし。
手にしていたスーツをきゅっと握りしめた。
あっ。これ早くクリーニングに出さなくちゃ!!
始業までもう少し時間があるから、事情を話して外出させてもらおう。
最寄りのクリーニング店、どこだっけな。
スーツの両肩を掴み、縦半分にしてから腕に掛けた。
秋葉くんの意地悪な笑みを思いだし、肩を竦める。
秋葉雅人、彼のことはどこか苦手だ。
同期なのに彼は既に「出来る男」の雰囲気を纏っている。
年齢は二つ上。
少しは話もするけど、私は一線引いている。
越智さんと同じ課で営業職。
成績はいつも越智さんに次いで二番目。
出来る男風なのに、一番じゃない辺りが詰めは甘いし、本性が見えない辺りも怪しい。
越智さんと違って、浮いた話は聞かないけれど、彼も有望株に間違いないから、狙っている女子社員がいることは知っている。
クリーニング出して、さっさと片付けよう。
変に勘ぐられるのも、妙な噂を立てられるのも迷惑だ。
だけど、少しは秋葉くんに感謝しないといけないだろう。
襲ってきた睡魔を追い払ってくれたのは彼だから。
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