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スマホで近辺のクリーニング屋を調べたが、軒並み開店前で、仕方なくロッカーにスーツを仕舞う。
出勤して着替えていた女子社員が目敏くその様を窺っていて「どうしたの、それ?」なんて聞いてきたので、仕方なく「コーヒーかけちゃってね、後でクリーニングに出すの」と答えた。
誰の、まで言及すると、ろくなことになりそうにないので、そそくさとロッカールームから退散した。
年齢も勤続年数もそこそこの立ち位置なので、あからさまに標的になることはないものの、女子社員の目は厳しい。
営業課では一目置かれている秋葉くんと同期だというだけで、羨ましがられたりもした。
入社後すぐに新人研修なんかもあるから、他の人より行動を共にする機会はあったけれど、私自身は彼と接点を持ちたいなんて爪の先程も思っていないんだから、妬まれても困る。
汚れは早いうちに……それはそうだけど、店が開いてないんじゃ話にならないし、どうせ染み抜きの念入りコースで綺麗にしてもらうのだ、今更一時間も二時間も大差ないだろう。
少し外出させてもらおうかと思ったけど……昼休憩中にいけばいいか。
マグカップのコーヒーを一口飲んだとき、朝礼のチャイムが鳴った。
社内ではジャケットを脱ぎ、ワイシャツ姿で仕事する人も少なくない。
システム部に関しては私服だし。
バレないことを期待したけれど、普段ジャケットを脱がない秋葉くんがワイシャツにライトグレーのスラックス姿で見積もりを作るのを、女子社員が見逃すはずもなかった。
「コーヒーかけられたのって秋葉くんだったんだ」
ロッカーで声をかけてきた萩原さんが、秋葉くんの傍らで呟くのが小さく聞こえた。
隣の課とはいっても、パーティーションもなければ遠く離れているわけでもなく、整然と並ぶデスクの向こう側、通路を隔ててちょうど向かい側に秋葉くんはいる。
「誰から聞いたの?」
パソコンから目をそらさず、彼は冷ややかに答えた。
「ロッカーで見かけたのよ、秦野さんがスーツ仕舞ってるとこ。クリーニングに出すからっていう割にロッカーに入れるんだもん、信じられない」
クスリと笑む様は可愛らしくもあったけど、ちらっとこちらに視線を寄越した萩原さんが、秋葉くんに対してとは明らかに違う嫌味な笑みを浮かべた。
開いてなかったからだよ。
胸の内で溜め息をついたとき、秋葉くんが立ち上がった。
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