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コツコツコツ……
ヒールが歩道のタイルを叩いて小気味良い音を立てる。
小さい頃、このコツコツという音に憧れたっけ。
実際履いてみると、長時間になればなるほど足が痛んで仕方ない。
歩き回るんだから、踵のない靴に履き替えれば良かった。
二階の総務に立ち寄ったときは、カーペット敷きだったから気にもしなかったのに、たまに外に出て歩き回る業務が入ると途端にそう思う。
通勤時は車だから気にならないし、おしゃれしてるときだって履くんだけど。
それでも普段はペタンコの靴やスニーカーを愛用してるから、ついでにちょっと前に下ろしたばかりのパンプスだから、余計に気になる。
最寄りの郵便局で速達を頼み、切手を購入した。
再び、銀行へ向かうために外へ。
少し前からは考えられないほど空気が適温で、日陰に入ると肌寒いくらいだ。
銀行で用事を済ませると、スマホを弄ってクリーニング店の所在地を確認する。
ついつい小説サイトに接続してしまいたくなる気持ちを押し止めて、時折地図を確認しながら目的地へと足を動かした。
会社に来るぐらいで裏通りにまで足を伸ばさないから、なんとなく新鮮に感じる。
このカフェ可愛い。
一旦足を止めた。
あ。ランチやってる。
お昼御飯、ここにしようっと。
横目で見ながら通過して、一つ通りを越えたところにクリーニング店の看板を見つけた。
事情を話して丁寧且つ早目にとお願いすると、人の良さそうな店主は明日の午後には出来上がってるよ、と言った。
代金を支払って引換券をもらい、クリーニング店を出る。
……と、店の脇に立っている人物を見て足を止めた。
「やっぱりここに来ると思った」
親しげに言われるのが癪だ。
今朝とは違うスーツに身を包み、長い腕を組んだ彼が私を見下ろす。
「会社から一番近いし」
ボソリと呟いて、私は秋葉くんの前を横切る。
カツカツカツ……
さっきよりヒールの音が心なしか騒がしくなったのは気のせいだ。
「今から昼でしょ?一緒にどう?」
後ろから声をかけられる。
勘弁!!
女子社員に見つかりでもしたら、後々面倒だもん。
足を止めて振り返った。
「行く店決めてるから。
秋葉くん、外回りは?時間大丈夫なの?」
「アポは一時半。昼時に行っても迷惑なだけでしょ」
……そうだけど。
「そこのカフェでしょ?行くよ」
立ち止まった私の手から空になった紙袋を奪い、彼は笑った。
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