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「ちょっ、それ財布入ってるから!!」
慌てて秋葉くんの後を追う。
私より長いコンパスでスタスタと歩く彼に追い付こうと、急ぎ足で歩いた時だ。
痛っ!!
踵に痛みを感じた。
まだ足の形に馴染んでいないパンプスの縁が摩擦し続けた踵は、軽い靴擦れを起こしていた。
もうっ!!
彼のせいではないのだが、やたらと彼が忌々しい。
秋葉くんは横断歩道を渡り、カフェの前で歩みを止めてこちらを見た。
靴擦れと苛立ちで、ムッとしたまま歩く私にプッと噴き出して、彼は店に入っていった。
あー、もうマジムカつく!!
明らかに自分のペースと時間を乱されて、最早怒りに近い感情が沸き上がる。
全くもって一緒にランチをしたいなどと思ってないが、これから取引先に行く秋葉くんに財布を持っていかれては困るから、結局店に入るしかない。
早々と二人掛けのテーブルについている秋葉くんの向かいに、少々乱暴に椅子を引いて座った。
私の様子など意にも介さず、彼は余裕の笑みを浮かべている。
「なんでここって解ったのよ」
ブスッとしたまま呟くと、「さっき立ち止まってるの見たから」と軽く返された。
一体いつから見てたのよ。
ストーカーみたいな事しないでよね。
「日替わりでいい?」
問い掛けられ、一瞬躊躇した。
休憩時間は限られている。
ここで意地になって紙袋を奪って会社に戻ってもあまり意味がないし。
せっかく入ったなら、お店も堪能したい。
「……うん」
しょうがない。
どうか見つかりませんように。
それだけは頼みます、神様。
店員に日替わりランチを二つ注文した秋葉くんは、水を一口飲んでから、まっすぐに私を見て言った。
「さっき、萩原さんが言ったこと、ほんとに気にしてないから。
やな気分になっただろ、ごめんな」
予想外の内容に、イライラしてた気持ちが鳴りを潜めた。
「まさか、それ言うために待ってたの?」
「いや、折を見て言おうとは思ってたけど、見つけたのは偶然。
会社で話すと角が立つから丁度良かったよ」
言い終えるとまた一口、彼は水を口にした。
「……いいよ別に。秋葉くんが謝ることじゃないし」
「まあね。でもあれは悪意のある言い方だったからさ。
聞いてるこっちが気分悪かった」
私も水を一口飲む。
「解りやすく秦野さんを庇っちゃったからね。
明日から風当たり強いかもね」
面白くなりそうだと言わんばかりに、彼は口の端を上げた。
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