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なんだ、自覚あるんじゃん。
またもや湧いてきた苛立ちを、秋葉くんにぶつける。
「そう思うならさ、何とかしてよね」
秋葉くんは、きょとんと私を眺める。
「解ってるんじゃん。
あの人、秋葉くんと関わりたくて仕方ないんだよ。
嫌じゃないなら付き合ってあげたら?
そうしてくれたら私も平和に過ごせるんだけど」
カラン
彼が持ち上げたグラスの中で、氷が向きを変えた。
「俺にも選ぶ権利はあると思わない?」
呆れたように彼は言い、水を飲み干した。
そりゃあね、好きじゃないなら仕方ないけど。
そうハッキリ脈はないって知ってしまうと、一生懸命な萩原さんが気の毒に思える。
まあ、こういうことは努力次第で変わっていくかもしれないしね。
気が付いたら纏まってたりする可能性がないとは言えないから。
「聞かなかったことにしとく」
しれっと言うと、彼も棒読みで答えた。
「そりゃどーも」
ランチが運ばれてきた。
鶏肉のグリルにオレンジソース、彩りの綺麗なサラダ、ちょっとだけパスタが盛られたプレートとスープ、ライス、そして小さなデザートがトレイに乗っていた。
「わあ、美味しそう」
ついつい苛立ちを忘れて声に出した。
店員さんが表情を崩し、秋葉くんが噴き出す。
しまった、素が出た。
「案外素直じゃん、秦野さん」
日頃距離を置いているだけに、こんな素の状態を見せてしまったのが悔しい。
「いいでしょ、美味しそうなんだから。
いただきます!」
割り箸をパチンと割って、手を合わせた。
そう、秋葉くんに構ってる暇はない。
ランチ食べたらさっさと帰ろう。
香ばしく焼かれた鶏肉に、フルーツソースがよく合っている。
サラダにかけられたバルサミコ酢の効いたドレッシングがさっぱりしていてこれまた好み。
うん。この店当たりだ。
「旨そうに食うのな」
しばらく黙々と食べていたら、唐突にそんなことを言われて、口の動きを止めた。
視線だけを動かすと、秋葉くんが笑みを湛えてこちらを見ていて、またも失態に気付く。
モグモグと噛み締め、飲み込んでから、何でもない風に答えた。
「いいでしょ、美味しいんだから」
あ、さっきと寸分違わないこと言った。
「いーんじゃない」
クスリと笑って、彼も鶏肉を口に運んだ。
あー、もうやだ、ガタガタじゃん、私。
ムカつくっ!!
それきり会話もせず、私はただ舌鼓を打つことに決めた。
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