融かされたい

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嫌い、な訳じゃない。 ただそこはかとなく、ピリピリとしたものを感じる。 言うなれば『危険』。 出世頭でそこそこいい男。 今日みたいに間違ってることはそれとなく止めたり、角が立たないように配慮できる、まともな精神を持ち合わせた男。 これと言って嫌な所などない。 なのに……ピリピリくる。 業務では私はあらゆる課の雑用係。 営業サポートもすれば、プレゼンに駆り出されたり、事務処理もやらされる。 だからといって役職がつくでも、大きな何かを任されるでもない。 たいした不満もないが、確固たる足場がない、まるで根無し草のようだと思うことはある。 そんな雑用係だから、いろんな人と関わりは多いけど、秋葉くんとは関わりたくなかった。 「失礼します」 もうすぐデザートに手が届きそうだという絶妙なタイミングで、店員さんがコーヒーを運んできた。 「ありがとうございます」 言葉を返してコーヒーを置くスペースを作った。 その様子を見ていた秋葉くんは少し表情を緩めた。 「何?」 「いや。別に」 いちいち私の事見て含み笑いすんの、やめてもらえないかな。 私よりも先に食べ終えていた秋葉くんは、すぐにコーヒーに手を伸ばした。 遅れて私もコーヒーカップを手に取る。 んんっ、いい香り。 「少し急いだ方がいいかもよ」 秋葉くんは、腕時計をちらりと見た。 スマホを確認すると、12時45分。 わ、ヤバイ。 小さなフロマージュをパクリと口に納め、甘さを堪能してから、コーヒーを啜った。 「ご馳走さまでした」 小さく手を合わせる。 「ふはっ」 突然秋葉くんが声をあげた。 何事かと顔を上げると、彼は笑いながら言った。 「秦野さんてさ、俺の事、嫌いでしょ?」 「へっ?」 何を唐突に。 「いや、嫌いってこともないけど……」 言葉に困る。 毎日顔を会わせる同僚に、個人的な感情をぶつけるのは得策ではない。 それがマイナス感情なら尚更だ。 「久しぶりに作ってない秦野さんを見た気がする。 新人研修以来じゃね?」 彼はニコニコしているが、私は笑う気にもなれなかった。 「……嫌いって言ったら?」 挑むように秋葉くんの目を見た。 彼は目を細め、口の端を更に上げる。 「面白ぇなって思うね」 何がだっ!!! 「秦野さん、俺と対極の匂いがする」 秋葉くんが鮮やかに……妖しげに笑った。
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