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「水と油って解釈でいい?」
何の根拠があるのか知らないが、バカな話に付き合う気はない。
秋葉くんは虚を突かれたような顔をした。
S極とN極、プラスとマイナスなんて言うと思ったら大間違いだ。
財布から千円札を取り出す。
クリーニングの引換券が目に留まった。
前の話題など完全に他所に置いて、提案してみた。
「ねえ、これ、明日の午後には出来てるみたいだから、引換券渡しておこうか?
都合のいいときに取りに行ったらいいと思うんだけど」
紙幣と一緒に伝票の上に置く。
「俺の仕事がクリーニング店が開いてる時間帯に終わると思う?」
既に秋葉くんからさっきの妖しさは消えて、呆れ顔で返された。
「それに、俺に取りに行かせるなんて選択をしたら、誰かさんに何言われるか解んないよ?」
ああ……。
ゆるふわボブが自慢の面倒臭い顔が過った。
「じゃあ、スーツ返せるの明後日になるけど問題ない?
明日は私、サポートで社外だから無理」
「了解」
伝票だけを持って彼は席を立つ。
「じゃ、明後日よろしく。俺、もう行くわ。
秦野さんも急いで。あと10分しかないから」
テーブルに残されたお札と引換券。
「ちょっと、ランチ代!!」
慌てて立ち上がったものの、踵の痛みに顔をしかめた。
秋葉くんは私の声を簡単にスルーして会計を済ませ、店を出ていく。
お金、受け取らないのもムカつくけどっ。
あと10分って!!
余計な話振ってくるからじゃんか!!
靴擦れで痛む足とパンプスの間に、お店の紙ナフキンを捩じ込んで、店を飛び出した。
秋葉くんの姿はどこにもない。
いけ好かない
いけ好かない
いけ好かないっ!!
何が対極の匂いよっ。
何が面白いよっ。
ちっとも面白くないわよ!!
ガッガッガッガッ
ヒールは、明らかに昔の憧れの音と違う音を奏でた。
擦れた踵が痛い。
今日は厄日だ。
早いとこ仕事終わらせてさっさと帰ろう。
決意を胸に会社に戻った。
結局。仮眠も小説の更新確認もできないまま、不愉快な昼休憩は終わった。
本当に不本意だ。
見目麗しい越智さんは当然営業で社内にはおらず、気分転換もままならない。
隣で相変わらず手助けを求めてくる田越くんを適当にあしらいながら、私は淡々と業務をこなした。
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