融かされたい

17/142
前へ
/290ページ
次へ
足首を両手で包み、指先にやや力を入れてふくらはぎに向かってゆっくり揉んでいく。 リンパ、流れろー 頭の中で念じながら、両足に施す。 太ももが太いのが悩み。 ここの肉が胸にいってくれたらよかったのにと思いながら、両手で挟んで揺らした。 たぷたぷと波打つ、ほんのりピンクがかった濁り湯。 肩までどっぷり湯に浸かり、バスタブの縁に頭を乗せる。 ああ、至福の時間だ。 気持ちよさに目を閉じてうっとりしていたのに。 『キス顔』 『今度見つけたらするからね』 唐突に甦ったしたり顔。 ざばーっ!!! 勢いよく上半身を起こしたので、バスタブから湯が溢れだす。 なんなのよっ 出てこないでよね!! はい、終わり終わり!! 顔にぱしゃんと湯をかけて気持ちを切り替えると、湯船から立ち上がった。 更新分を読み進める。 ……わぁ、一難去ってまた一難。 ……社長でイケメン、こういう出会いがほしいもんだわ。 ……っきゃー!!やっと通じたよ!!ドキドキしてきた!! どの作品にもそれぞれに魅力がある。 「リアルではなかなかないよ、そんなの」って思う設定でさえものめり込めるもの。 切なくて痛くて「早く幸せにしてあげてよ」って思うもの。 主人公を自分に置き換えて、たくさんの恋模様を楽しむ。 もちろん、話の展開によっては「これは私なら無理だわ」というのもあるし、ヒーローより第二の男の方が好みだったりする場合もある。 ある作品が大量更新されていた。 昨日までの更新では、お互いの誤解が溶けて、やっと通じあうか?と言うところまで来ていた。 心を通わせた二人は……いきなりベッドイン。 ……あー、そうなるんだ。 大人の恋だし、長く想いあってたから……それもありだと思うけど……。 なんだかんだと妄想を膨らませ、誰かに狂わされたいと思っている割には、私は二の足を踏むタイプで。 そんなにすぐには身体を開けない。 スタイルに自信がないのもあるし、結局は身体だけの関係を良しとしない深層心理もあるんだと思う。 越智さんなら後腐れはない、そう思いながら迫ったり媚を売ったりしないのは、結局は気持ちの伴わない交わりを否定する、生真面目で面倒くさい性格がついて回っているから。 物語の人物から、自分を切り離した。 文字を追う。 もちろん、高揚感はある。 ただ、なんとなく自分に近い主人公だと思っていただけに……寂しかった。
/290ページ

最初のコメントを投稿しよう!

154人が本棚に入れています
本棚に追加