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「初めまして。秦野千里と申します。
本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。
本来なら、弊社の中島が本日の製品説明をさせていただくところですが、大変申し訳ないことに中島が体調を崩してしまい、僭越ながらわたくしがご説明させていただく運びとなりました。
どうぞよろしくお願い致します」
プレゼン会場となった会議室は、大きなスクリーンとマイクが設置されていた。
各所に点在する福祉施設の所長や職員が二名ずつ招かれたこの会議の規模がそれなりに大きいことは、中島さんとの打ち合わせで知っていたけれど、ここまで広い会議室に通されるとは思っていなかった。
震えそうになる声を深呼吸で落ち着けて、パソコン操作をしながら説明を開始する。
プレゼンに入る前、この施設の窓口である所長の鳥居さんに挨拶をした。
ふくよかで見るからに人が良さそうな女性だった。
若くして介護に携わったことが切っ掛けでこの福祉施設を開いたが、老老介護の現実は施設にも言えることで、年を重ねた職員にも使いやすいシステムを希望すると仰った。
プレゼンをするときに、私はあまりごり押しをしないようにしている。
確かにうちのシステムは良いですよと猛アピールをしたいところだが、他社のシステムも検討されているはず、あまり押しが強いと引かれてしまうかもしれない。
他社製品との比較も強引すぎると印象を悪くする。
質疑応答で他社製品との違いやマイナスポイントを挙げられたときに、いかに臨機応変に対応できるかをアピールした方が、導入後も末長くお付き合いしていくという姿勢を見せられて良いと思っている。
一通り説明を終え、デモンストレーションを行いながら、ここの施設で必要な機能や変更希望、細かな要求などをメモしていく。
出来る限り中島さんに詳しく要求を伝え、次に彼がここを訪れる際に話が噛み合うようにしたかった。
ちらりと越智さんを見た。
越智さんは資料に目を通してはいたが、どことなく我関せずの様子だった。
その姿に少し違和感を感じた。
担当が違うのは解っているけれど……。
中島さんの代理で来てるんだからもう少し真剣に見てほしいと思うのは間違いだろうか。
質疑応答も終わり、越智さんが見積書を鳥居さんに手渡した。
「どうぞこちらまでご連絡ください。
お待ちしています」
越智さんが素晴らしい笑顔と共に名刺を手渡した。
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