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……お待ちしてます、っておかしくない?
ここでも僅かな疑問を感じずにいられなかった。
ここは中島さんが再三足を運んで、うちのシステム導入への入り口を切り開いた場所。
システムの内容を少しだけでも理解しようとする姿勢さえ見せず、自分の名刺を渡して連絡しろなんて、無責任なんじゃないの?
けれども営業の進め方なんて、それこそ私の範疇外でおいそれと反論など出来ないし、名刺を渡した越智さんにも、この場に携われなかった中島さんにも、泥を塗るような真似は出来ない。
「鳥居さん」
私は内心ばくばくしながら、彼女に声をかけた。
「中島は数日お時間を頂くかもしれませんが、必ずこちらにお伺いいたします。
ですが、それまでに製品のことでご質問などがありましたら、どうぞ越智でもわたくしにでもご連絡ください。
喜んでお受けいたしますし、中島にも必ず伝えますので」
鳥居さんは越智さんの名刺を受け取ってからずっと曖昧な表情を浮かべていたが、私に向き直ってニッコリ笑った。
「解りました。
中島さんによろしくお伝えくださいね。
少々無理を言いましたから。お大事にと是非伝えてください」
「はい」
私は深々と頭を下げた。
多分鳥居さんは、ここに来て担当が変わるのではないかと不安になったはず。
足繁く通ってくれた中島さんだから色々相談したのに、今日来たばかりの営業とアシスタントに何を相談しろと言うのか……。
システムさえ導入できれば窓口は誰でもいいと言うわけではない。
そう思って、咄嗟に出た半ば言い訳のような私の言葉を、鳥居さんは素直に受け取ってくれた。
はぁぁぁ~
気付かれないように大きな息を静かに吐き出して、私は越智さんと共に会議室を出た。
玄関ホールに続く真っ直ぐな廊下を歩いていると、ガラス扉の向こうの様子が見えた。
外はまだ強い雨が降り続いている。
こんな悪天候の中、わざわざ集まってもらったけど、私の説明で大丈夫だっただろうか。
緊張が解けたのもあって、靴擦れが気になる。
手に持っている紙袋の中のスニーカーに早く履き替えたい。
「越智さん、すみません。ちょっとお手洗いに……」
隣を歩く越智さんを窺う。
彼は営業スマイルを浮かべて「どうぞ。じゃあ先に車に行ってるね」と言った。
……なんとなく、越智さんから不機嫌なオーラが漂っているように思えた。
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