融かされたい

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あまりの悪天候のせいか、昼前だからなのか、フードコートは人も少なくて、どの店もすんなり入れそうだ。 「越智さん、昼からの予定は?」 スケジュールを確認してみる。 「ん~、一旦会社帰って見積作って2時頃また出るかな」 ちらりと腕時計を見て彼は呟いた。 時間には余裕があるけど、やっぱり外回りがあるなら多少メニューは考えないといけない。 「うわー、お好み焼き食いてぇ。 あー、でも、一発でお好み焼き食ったってバレるんだよな、匂いで」 越智さんは笑いながらお好み焼き屋を眺める。 「ソースの匂いってそそられますよね~」 私も笑いながら答えた。 でもお昼に食べると、青のりとか服に染み付いた匂いとか気になっちゃうんだ。 「そそ。会社でさ、誰かがカップ焼きそばとか食ってたりすんじゃん?そしたらすげぇ食いたくなるの。 で、食ったら「ああ~、こんなんだよな」ってちょっとがっかりすんの」 「あははは、解ります、それ」 ソースの香りが充満した休憩室に入ると、なぜだか触発されてしまう。 それで夕食がカップ焼きそばになった、ってことも、それでがっかりするのも何度か経験済みだ。 「お好み焼き……食いたいけど、我慢だな。 秦野さんは何か食べたいものある?」 ぐるりとフードコートを見回す。 昨日グリルチキンだったし、夕食はコンピニパスタだったから、気持ち和食に傾いている。 手軽さは便利だけど、せっかくの越智さんとの食事でファーストフードはなあ。 うどん……啜る?ずるずるって? ちょっと嫌だなあ。 迷っていると、 「定食屋いこっか。色々選べそうだし。 あと、コーヒー飲みたいから」 と越智さんが親指でお店を指し示した。 私もコーヒーは飲みたい。 一番無難なお店だと思い、それに従った。 店にはいると、威勢の良い声が迎えてくれた。 おしぼりと暖かいお茶を置いたおばさんが、メニューを聞いてくる。 「んーと、俺は海鮮丼のセット。秦野さんは?」 「えっ、あ」 決めるの早いよ。 私はまだちゃんとメニュー見ていないんだけど……。 おばさんが伝票とボールペンを構えて待っている。 二方向からの視線が痛い。 「あ、じゃあ日替わりで……」 日替わり定食の内容さえ解らないのに、落ち着かなくてつい注文してしまった。 「もう少し待ってください」そう言えばいいだけなのに。 ……こういうところが、自分でも少し嫌だと思った。
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