154人が本棚に入れています
本棚に追加
人の視線……これに弱い。
『自分が思うほど、人は自分の事を見ていない』
それは解ってる。
けれども、よく気がつく人は、私がいつもと様子が違えば然り気無く窺ってくるし、昨日みたいにあれこれ詮索されることもある。
やっぱり『見られていない』とは言い切れないから。
人の目にどう映っているか。
バカな女だと……使えない女だと映ってはいないか。
萩原さんみたいに可愛らしくない。
越智さんみたいに出来る人間じゃない。
だからせめて『人並みの枠』から外れないように懸命にしがみついて、自分のつまらない部分をひた隠しにして生きている。
それは時に堪らなく窮屈で、疲れて、我慢を強いられた。
さっきもそう。
たった一言、『もう少し待って』と言いさえすれば、ゆっくりメニューを見ることができたのに。
食べたいなって思うものを探せただろうし、何が出てくるか解らない不安も感じずに済んだはず。
それが出来なかったのは……優柔不断で、何事にも時間のかかる女だと思われるのが怖いから。
お手洗いに行きたいと言ったときの、越智さんから感じた不機嫌なオーラに戦いたから。
……どうせなら……越智さんには良く見られたいから。
万一苦手なものが出てきたとしても、笑いながら『美味しいです』と言っている自分が想像できる。
つまらないプライドに縛られて生きている自分を、時々どうしようもなくつまらない人間だと思うのに。
それでも体裁を整えることを止められない。
そんな自分に出くわしたとき、とても自分が嫌になる。
「秦野さんが営業課の庶務だったらよかったのに」
どろどろの感情に支配されていた私を現実に呼び戻す越智さんの落ち着いた声に、ビクッと体が震えた。
それに気付くことなく、越智さんは続ける。
「萩原さんはプレゼン出来ないからなあ」
お茶を一口啜り、『あつっ』と呟く。
そういう気を抜いた様さえも、格好いいなって見惚れてしまう。
「……営業の庶務は忙しいですから」
こう答えるのがやっとだった。
毎日営業は誰かしら旅費や交通費が発生して、領収の整理に追われているし、電話がかかってくる率も高い。
プレゼンが出来るか出来ないかはそんなに重要なことじゃない。
畑が違えば出来るものも違うのだ。
人は人、私は私。
こんな風に全てが割りきれたら、体裁ばかり気にする生き方を変えられるだろうか……。
最初のコメントを投稿しよう!