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……ああ、もうホントに疲れた。
アパートに帰り、玄関のドアを施錠した途端、どっと疲れが襲ってきた。
ベッドにそのままダイブする。
慣れないプレゼン、落ち着かなかった憧れの人との時間、帰社後待ち構えていた課長への報告。
見えない手に神経を四方から引っ張られて、ピチピチに張りつめた状態の一日だった。
留意点を書き添えた報告メールを中島さんに送り(まあ見るのは数日後だろうけど)、午前中に溜まった事務系の仕事を片付けた後、システム課に借り出されてデータ入力を手伝って、会社を出たのは定時を一時間過ぎた頃だった。
スーパーでお惣菜を少し買って、後は家にあるもので済ませよう、そう思ったけれど何かを作るのも億劫で、結局三割引になっていたお弁当を買った。
明日頑張ればお休みだし、ちゃんとご飯を作ろう。
掃除して、おこたにお布団を掛けて、読書三昧しよう。
くたびれた体をようやく起こして、ジャケットをハンガーに掛けた。
シャツとスカートを脱いで部屋着に着替えると、とりあえずお風呂に湯を張った。
今日はいつもより早く帰れたから、全部済ませて早く癒されたい。
スマホを充電し、お弁当を温めて胃に収めた。
ヨーグルトを食べて、何気なくいつものようにコーヒーを淹れると、お風呂のタイマーが鳴った。
あー、失敗した。
コーヒーも入ったのに、スマホを見る準備は万端なのに、お預けだあ……。
湯気の上がるカップを見て、自分に呆れた。
すっかり冷めてしまったコーヒーを啜りながら、次ページの文字をタップする。
連載ものの更新分を読み終えてしまうと、お気に入り作家さんの過去の作品を読み始めた。
完結しているその作品はかなりのボリュームだが、読み始めると止まらない。
次へ、次へと読み進めたくなる書き方。
確実に拾われて解き明かされていくエピソード。
とても魅力的な文章だ。
何年間も同じ人を想い続けるストーリー。
彼は友人の恋人、手に入る筈もないのに諦めきれない苦しい恋。
話には引き込まれる。
ただ、自分にはない感情だなと思う。
そこまで深い気持ちになったことはない。
別れた彼にだって、もうそんな気持ちは残っていない。
主人公の気持ちを知りつつ、決して与えることもしないくせに、柔らかく暖かい毛糸をどこか一部に絡ませて主人公を捕らえて離さない男に、なんとなく苛立ちを感じる。
恋心を揺らして楽しめるのは、結局惚れられた側なのだ。
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