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「あら、あなた........須藤さん?」
薄暗い礼拝堂の戸が開き、光が差した。
香純からは逆光のため、顔を判別出来なかった。
それなのに、胸が跳ねた。
柔らかに澄んだ声も、すらりとした長身も、長い髪も。
香純が入学以来、そっと見つめていた方を示していた。
驚いて声が出せなかった。
早く返事をしなければ、失礼だわ、と思っているのに。
名前を知って下さっていたことの喜びがじわじわと広がり、舌を甘く痺れさす。
コツン
コツン
足音まで優雅で、扉をノックするようだ。
「ああ、眩しかったのね、ごめんなさいね」
「櫛谷(くしや)先輩、........どうして」
「お休みに入る前にオルガンに触れようと思いましたの」
振り仰ぐと、パイプオルガンが鈍い光を放っていた。
近年、寄贈されたそれは礼拝堂の中で異質であった。
「私、将来オルガン奏者になりたくて。
許可を頂いて時々弾いていますの」
香純が思い出す、一番美しい先輩はオルガンを弾いている姿だ。
「でも、」
先輩は柔らかく微笑んだ。
「須藤さんが、神とお話されていたのでしたら、また後に改めて参りますわ。
ごきげんよう」
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