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「あっ」
焦りを帯びた声に、先輩は踏み出そうとした足を止めてくれた。
「違うんです。特に何も........考えていた訳ではなくて。
聴いていては、ダメでしょうか」
ついそう言ってしまってから、口を覆う。
なんて厚かましいことを。
先輩は、
練習に集中したいに決まっている。
「申し訳ありませんでした。
練習のお邪魔ですよね。外で聴かせて頂きます」
先輩の脇を抜けてドアに手をかけようとした。
肩を、抑えられる。
強い力ではない。
力があったのは、先輩の目だ。
「聴いていて結構よ。でも、後にしましょう。何があったの?」
優しく、じっと目を覗きこまれた。
そんなふうに覗きこまれたら。
内側の汚いところまで見透かされそう。
「夏の休暇届けは出しているの?」
「はい、今日の夜に........戻ります」
「そう。寂しくなるわね」
「先輩は、お戻りには....?」
「帰るわ。来週までは、オルガンの練習を言い訳に延ばせたの」
ふふ、と悪戯っ子のように先輩が笑った。
「須藤さんは、綺麗な声をしているわね」
不意にそう言われ、顔に熱が集まった。
「賛美歌をとても大切に歌っている感じかしたの。」
オルガンの椅子に、並んで座るよう勧められる。
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