3人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
冷凍ステーキ肉が溶けてきました。
それはそうです、今は初夏です。
標高も少し下りてきたところなのでまぁまぁ暑いです。
イヴさんの手元がびちょびちょです。
表情も仏頂面に近くなってきましたね。
いかにも「ゴーーーーー……」という擬音が似合いそうな顔です。
それに照り付ける真夏の太陽と相まって、結構シュールな絵ですね。
私は、そう冷静に分析して……いる場合じゃなかったです。
早く何かしないと肉が傷んでしまいます。
周りに冷たい小川などがあればいいのですが……
私は良いことを思いつきました。
「魔法で凍らせられません?」
決まりました、ドヤ顔ものです、万能方法魔法、なんて素晴らしいんでしょう。
「魔法はそんなに万能じゃないわ」
しれっ……と全否定されてしまいました。
「えー、そうですかー?」
そう私が答えると、
「魔法で救えないものも……なんでもないわ」
どうも傷口に触れてしまったようです。
この人、意外とナイーブですね。
いじりがいがありそうです。ブラックあややここに見参……
そうにやにやしていると、肉の焼けるいい匂いが……
「ちょ……ここで焼いてるんですか?」
「そうよ」
いや、見ればわかりますけど……食べるんでしょうか?
あ~、おいしそうに食べてますね。
「全部食べれるような量には見えないんですが……」
「やっぱりおいしいわね、この肉、
もう少しギルドに居られなかったのが残念だわ……」
ぱくぱく食べていきます、すごいですね。
保存できないなら食べる、合理的かつ素晴らしい発想ですね。
「あなたも食べないの?」
「え?あ、いただきます」
おいしいですね、この肉、実はギルドで食べたことなかったんです。
「魔法で焼いたんですか?」
「そうよ」
「凍らせはできないんですか?」
「氷魔法は水魔法の亜種って知っているかしら?」
「はい、魔法学校時代に少し学びました」
「私、表も裏も五行魔法は一通りできるけど、
亜種となると話が違って生まれ持った才能に左右されるのよ。
私には肉を凍らせて維持させるほどの才能は無いわ」
「そうなんですか……」
「そんな残念な顔で見ないでくれるかしら……私も万能じゃないの」
なんだか、肉を冷凍することなんかで
私がこんなにしんみりするとは思ってもいませんでした。
最初のコメントを投稿しよう!