旅路

4/7

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
冷凍ステーキ肉が溶けてきました。 それはそうです、今は初夏です。 標高も少し下りてきたところなのでまぁまぁ暑いです。 イヴさんの手元がびちょびちょです。 表情も仏頂面に近くなってきましたね。 いかにも「ゴーーーーー……」という擬音が似合いそうな顔です。 それに照り付ける真夏の太陽と相まって、結構シュールな絵ですね。 私は、そう冷静に分析して……いる場合じゃなかったです。 早く何かしないと肉が傷んでしまいます。 周りに冷たい小川などがあればいいのですが…… 私は良いことを思いつきました。 「魔法で凍らせられません?」 決まりました、ドヤ顔ものです、万能方法魔法、なんて素晴らしいんでしょう。 「魔法はそんなに万能じゃないわ」 しれっ……と全否定されてしまいました。 「えー、そうですかー?」 そう私が答えると、 「魔法で救えないものも……なんでもないわ」 どうも傷口に触れてしまったようです。 この人、意外とナイーブですね。 いじりがいがありそうです。ブラックあややここに見参…… そうにやにやしていると、肉の焼けるいい匂いが…… 「ちょ……ここで焼いてるんですか?」 「そうよ」 いや、見ればわかりますけど……食べるんでしょうか? あ~、おいしそうに食べてますね。 「全部食べれるような量には見えないんですが……」 「やっぱりおいしいわね、この肉、 もう少しギルドに居られなかったのが残念だわ……」 ぱくぱく食べていきます、すごいですね。 保存できないなら食べる、合理的かつ素晴らしい発想ですね。 「あなたも食べないの?」 「え?あ、いただきます」 おいしいですね、この肉、実はギルドで食べたことなかったんです。 「魔法で焼いたんですか?」 「そうよ」 「凍らせはできないんですか?」 「氷魔法は水魔法の亜種って知っているかしら?」 「はい、魔法学校時代に少し学びました」 「私、表も裏も五行魔法は一通りできるけど、 亜種となると話が違って生まれ持った才能に左右されるのよ。 私には肉を凍らせて維持させるほどの才能は無いわ」 「そうなんですか……」 「そんな残念な顔で見ないでくれるかしら……私も万能じゃないの」 なんだか、肉を冷凍することなんかで 私がこんなにしんみりするとは思ってもいませんでした。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加