3人が本棚に入れています
本棚に追加
暫く周囲を探っていると比較的近い、
わかりやすい場所に大きい猿がいました。
「あれは、ホンミョウタイセイね、
龍人が命名した比較的北部の猿よ」
イヴさんが言います。
ホンミョウタイセイ、確か漢字ではこうだったかな……{本明大成}
ここは共和国と真王国の中間干渉帯に近い位置にあり、
手付かずの森が干渉帯一帯を覆っているため、
野生の獣に遭遇しやすい場所です。
ですが、ここはどちらかというと山脈の南側、南部に位置し、
龍人が古来命名した北部の獣がここにいるのは奇妙です。
「これも汚染林の影響でしょうか……」
私がそう言うと
「住む場所を追われたのね……かわいそうに……
エルフとして私は……とても悔しいわ……」
自然を愛するエルフにとって、
汚染林は悲しみの対象なのでしょう。
私は俯いてから前を見据え、現状を確認しました。
よく目を凝らすと見えるのですが、
ホンミョウタイセイの左腕に雪さんは掴まれています。
彼女は気絶していると思われ、
首が丸太のような太い指の側面で支えられて、だらんとしており、
さらに動きが無いことが証拠です。
この猿は3mの体高をもち腕力もさることながら、
身のこなしや素早さも合わせ持つ比較的危険な猿です。
「どうしましょう……イヴさん」
あの猿が少しでも力を込めたのなら、彼女の全身の骨は粉砕されるでしょう。
私は捕まれて匂いを嗅がれている雪さんの安否が非常に不安になり、
イヴさんに無意識に訴えかけていました。
「大丈夫よ、今から少し詠唱に入るわ、30秒ほどかしら、
私も詠唱しながら戦えるけど、ここに潜んでいることがばれたら
あの猿を少しは引き付けていてくれるかしら、できるわね」
私は「はい、できます」と小声で返すと彼女はすでに詠唱に入っており、
辺りをくまなく注意しながらもホンミョウタイセイを見据えていました。
最初のコメントを投稿しよう!