三流小説家。

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おかしいことはわかっている。生死の価値、意味、尊重なんて考えて答えを出したところでなんの結果も残さない。でも、書きたいのだ。 他人の全てを奪いたい。無くした物を別の誰かで埋め合わせたい。自分の好む物を強引にでも奪い取りたい。たとえそれが他者を殺してしまったとしてもだ。おかしい感覚だとしても、私からしたらそれは正常な感覚だからだ。 「ね、ねえ。お姉ちゃん。もし、お父さんにお前はいらない、でてけって言われたらどうすればいいのかな?」 「ん?」 もう一度、思考の渦に潜りかけていた頃、女の子が口を開いた。その言葉は五千円の値札を持ってビニールシートに座っていた理由にも直結するだろうな。 「どういうことなのかな、 もう少し詳しく話してくれない?」 うんと頷いて、女の子はポツポツと話し出した。今日はフリーマーケットに一緒に来る予定だったのだが、今日、急な用事が入って、それで、 「喧嘩しちゃったと、ふーん、なるほど。で、君のお父さんが『お前なんかいらない』って?」 賢い子なのだろう。お父さんにもゆずれない部分があったとわかっていても、その幼さゆえに我慢することもできなかった。こういう部分は子供らしい。すこし背伸びし気味かもしれないが、もっと大きな問題かと思ったけれど、違うようだ。 「うん。だから、もう、誰かに買ってもらおうと思って、いらない子なんだし、フリーマーケットだから、なんでも売ってるし」 だからって、自分を売り物にすることはないだろう、ここは辺はなんだか子供の発想だな。その言葉にプッと笑ってしまった。 「なんで、笑うの?」 「いや、仲良しなんだなーって思って、ほら喧嘩するほ仲がいいって言うでしょ?」 「だって、いらないって」 「それは売り言葉に買い言葉、お父さんだって、言いたくて言ったわけじゃないよ。お父さんは貴女こことが好きだからちょっと的外れな、厳しいこと言うこともあるのよ。人はいつも正しくなんかいられない、間違うこともあるんだから」 不機嫌そうに見つめる女の子、まぁ、わからなくても無理もないか、でも、仲良しということはいいことだ。好きでいてくれることは幸福だ。嫌われてもやり直すこともできるが、もしも、それがなくなれば無関心になればそこで終わりだから、偉い人は言ったのだ。好意の反対は無関心なのだと、できれば私のようになってほしくない。
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