三流小説家。

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「じゃあ、一言、ごめんなさいって言ってみたら? ここでじっとしててもなんにも変わらないわよ」 「そんなことないもん、もっと、お姉ちゃんとお話していたいよ」 と、そんなときだった、女の子のポケットから携帯の着信音が鳴り響いた。あっと女の子の表情が変わる。 「お父さん?」 ブンブンと首を横に振って否定するが、それでは肯定しているようなものだ。だったらと私は女の子のポケットから携帯をすっと引き抜き、 「出てもいい?」 と、意地悪を言う。ムーッと女の子が頬を膨らませた。未だに鳴り響いている携帯を女の子がとって、口元で手を覆い隠しながらもごもごと話だしたが、なんとなく話している内容は理解できた。きっとお父さんからなんだろう、しきりに頷いたり、ちょっと怒ったりしている。幸せそうだと思った、私はその後ろ姿を眺めながらつくづく思う。 「お姉ちゃん。えっと、お父さんがお家で待ってるの。だから、ね」 「そう。ここでお別れだね。ちゃんと一人で帰れる?」 「帰れるもん。子供扱いしないで、それとね。お姉ちゃんも小説家さんとして頑張らないとダメだよ」 「はいはい、わかってますよ」 と、笑うと女の子もつられて笑い、私達はここで別れた、一日にも満たない短い時間だったけれど、有意義な時間を過ごせた。んーっと背伸びしつつ立ち上がるとズボンに入れたポケットからブーブーと短いメール着信があった。ああ、アルバイトの時間だった。私は携帯を開きメールの文面を読みそして、パタンと閉じた。 夜中、私はとある一軒家を見上げていた、深夜ということもあり人通りは少ない、黒っぽい服装で扉にそっと近づき、腰に巻いたバックから工具を取り出す、慎重に鍵穴に差し込み、調整していく、できるだけ素早く、しかし、精密に冷や汗が額を伝い、カシャンという音と共に鍵が開いた。そっと室内に侵入する。玄関には男物の靴と、子供の靴が一足ずつ置かれていた。思わず舌打ちしたくなった、メールでは男に子供は居ないはずだったのに、情報不足に怒りを覚えつつ自分でも調査していなかったことを悔やんだ。だが、引き返すことはできない、ターゲットの男のもとに向かうしかない。そっと室内に入り、息を潜め腰からナイフを取り出す。 男の居場所はすぐにわかった。わかりやすい高いびきをかいていたから、熟睡しているのかもしれないが、油断はできない。物音一つが失敗に繋がるかもしれないから
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