理想と現実

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店を出て駅で二人を見送った後、新居に戻った。ハイツの二階の一番奥が私の部屋だ。 階段を上ると隣の家の桜が満開なのが目に鮮やかに映って、思わず足が止まる。 「綺麗」 今年は花冷えの気候らしく、寒さが居座る分長く桜が楽しめるというニュースを見たのを思い出す。 丁度私の部屋の前からが一番綺麗に見える。 いい部屋見つけてラッキーだったと上品なその色彩に目を奪われながら部屋へと入った。 電気をつけるとまだ見慣れない部屋が現れる。 こまごまとしたものはまだ収納できていないけど、とりあえず今日は朝から引っ越し作業で疲れたのでお風呂に入ることにした。 明日は出勤だ。 先月から新しくオープンした店舗の店長になった。 期待が向けられているのがわかるからこそプレッシャーもある。 明日に備えて早く休もうと湯上りの肌にパジャマとして代用している高校時代のジャージを着た。 紺色の生地と左胸の斎藤と縫われた黄色の刺繍が何ともダサいけど、着心地が最高だからこの歳まで手放せずにいる。 かなりの年季が入っているからパジャマ以外では着ないけど。 寝る前に忘れずにさっきもらったサンキャッチャーを窓辺に吊す。 月の光を浴びて優しく光るそれに口角を上げた時、ベランダから小さく「にゃあ」と聞こえた。
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