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確かに、私の中を今、多くを占めているのはこの二人に関することだけど……。 「宗介くんのことは、もういいんです」 「そうなの?」 「だって、連絡しても、返事も来ないし……そもそも、もう無理だって、言われたし」 答えは出ている。 だから、もう諦めもついた……はずなのに、いざ声に出すと胸から押し上がってくるものに声が震える。 「でも、迷惑なら迷惑だって……一言くらい、くれてもいいのに」 それすらしたくないくらい、私のことが嫌なの? その言葉が出る前に目の前が霞む。 慌てて下を向いたらぽとぽとと湯船に雫が落ちて波紋が広がっていった。 「ごめんなさい。宗介が傷つけてしまって」 キメ細やかで柔らかな腕にそっと抱き寄せられる。 志帆さんのせいではない。私たち二人の問題だから。 と言おうとしても嗚咽が混じりそうで、涙を流しながら首だけ振った。 誰にも話していない気持ちを吐露したら、溜まっていた感情が一気に溢れ出してきて抑えきれない。 思っていたよりも無視されたことが私の心に深傷を負わせていた。 「帰国して、うちの両親に宗介が話していたわ。あなたとの結婚はなくなったって」 伏せていた顔を上げる。 私はまだ両親に話していない。もう一度きちんと話し合いたかったから。 だけど、彼はもう踏ん切りをつけて話を進めようとしているのだとわかると胸が苦しくてさらに涙が頬を伝っていった。 それを志帆さんの細い指が湯に落ちる前に拭い取ってくれる。 「でもね、あなたの症状のことは一切話していないの」 「え?」 「『全部俺のせいだから』って。私にも、唯ちゃんの症状のことは言うなって口止めしてきたの。もちろん、両親は納得できないようだけど、ちゃんとお詫びに行かないといけないって、唯ちゃんとご両親に直接謝罪したいと言ってるの。今後、宗介から連絡が入るならそのことかも」 私がこんな身体になっちゃったからなのに、どうして庇うんだろう。 私のせいにしたほうが周囲も納得させやすいはずなのに。 対峙した時の宗介くんは冷淡で、本当に氷みたいな目で私を見ていたのに。 志帆さんの話と繋がらなくて、混乱してくる。それと同時に庇ってくれたことは、やっぱり……少し嬉しくて、胸を締め付けていた力が緩んだ。 「ただ、本人がまだ覚悟を決めかねているみたい。バカな弟だけど、もう少し待ってあげてくれる?あなたたちは絶対もう一度会うから」 「……わかり、ました」 志帆さんの予言は信頼している。 私が襲われかけていた時も助けに来てくれたから。 鼻を啜りながらこくりと頷くと、志帆さんは柔和に笑って抱擁を解いた。
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