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「泣いてばかりですね。すみません」
「いいのよ。普通、こんな事件が立て続けに起ったら男でも泣くわ」
涙を恥じる私に優しく頭を振ってくれる。
確かにいろいろあった。
でも、今一番どうにかしなければならないことは決まっている。
「あとは、蓮ね。唯ちゃんは、どうしたい?」
「蓮さんを……自由にしたいんです」
彼の作ったものは、多くの人を幸せにできる。
どうしても、このまま彼が望まない道を歩いていくのを見送る気になれない。
だからといって、私にできることは限られていて、決定的な解決策があるわけでもない。
でも、これが最後の機会じゃないだろうか。
もう逃すと本当に引き返すことができない気がして、焦燥感がもたもたしている私を追い立ててくる。
「前に彼のことを『運が強いから大丈夫』と言ったのを覚えてる?」
志帆さんが軽く首を傾げるのに私は首肯した。
彼女が初めて蓮さんと対面した日、確かに私に言った。
あの時は漠然といい意味合いで捉えただけで、あまり深く考えなかった。
「彼の魂はね、『悪運』が強いっていうのかしら。困難にこそ遭う運命を持つけど、どこでも大きく花開く性質を持っているの」
「た、たましい?」
突拍子もない単語が出てきて思わず声が出てしまった。
志帆さんはそんな私に気分を害した様子なく、真面目な顔で頷く。
「そう。彼のはね、どんなところに根付いても多彩な才能で切り抜けられる。だから、このまま後を継いでも成功はするでしょう。本人が望む道かは別だけど」
まるで、蓮さんの行く末が見えているかのような口調だった。
いや、実際視えているのかもしれない。
そう思うと、胡乱な話ではなくて、喉が自ずとごくりと唾を呑んだ。
「ずっとそうやって苦難の輪廻を繰り返している。それでも枯れないのが彼の強さとも言えるけどね」
「そんなの……つらいじゃないですか」
「そうね。だから、毎回満足ではない終わりだったかもしれないわね」
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