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翌日、私は相模さんに連絡をした。 景虎さんに会いたいと伝えると、すんなりアポイントを取ってくれることになった。 理由を聞いてこないあたり、彼は私からのアクションがあると予想していたのかもしれない。 一度電話を切って待っていると、折り返しの連絡はすぐに来た。 明日の朝なら時間が取れるという。 タイミングよく私も公休日だったのでちょうどいいと了承した。 蓮さんにはもちろん内緒だ。 景虎さんに会うなんて絶対反対するだろうし、彼が同席したらきっと壮絶な親子ケンカになって話し合いにならない。 きっと知れば怒るだろうなと思って相模さんにも口止めをお願いしたら、これまたすんなり承知してくれた。 迎えには相模さんが来てくれた。 マンション前につけた車の横に立って、現れた私に慇懃にドアを開いてくれる。 「すみません、わざわざ朝早くに迎えまで」 「いいえ、こちらから早朝にお願いしておりますので、景虎様から『くれぐれもお迎えするように』とのことです。お気になさらず」 「どうぞ」と中に誘われて、私は後部座席に乗り込んだ。 見計らってパタンと閉められるドア。 続いて運転席に相模さんが乗り込んでシートベルトをすると、車はゆっくりと発進した。 「景虎様を説得なさるおつもりですか?」 少し走って大通りに出たところで、相模さんが前触れなく口を開いた。 私は脳内でこれからの展開をシミュレーションしていたから、いきなり話しかけられて、ビクッと力が入った肩を跳ね上げた。 「は、はい……無謀だと思うのですが、どうしてもこのままにしておけなくて。ただ、何か策があるわけでもないんですけど」 あれから考えたけど、やっぱりいい案は浮かばなかった。 それでも、志帆さんは「あなたなら大丈夫」と送り出してくれた。 その言霊が今唯一勇気をくれているけど、口に出すとどうしても不安で声が萎む。 「景虎様は本日機嫌はよろしいと思われます」 相模さんが天気の話をするように淡々と話し始めた。 「昨日、大きな仕事がひとつ片付けられましたので、今朝は特に何もなければ、めずらしくご機嫌でしょう」 「ほ、ほんとですか!?」 「はい。と言っても、あの方が一度決められたことを覆すことは、ほぼございません」 「そうですか……」 じゃあ、駄目じゃん。 絶望に俯きそうになった時、 「ただ、無駄なことは一切好まないご性格です。あなたに会うと決めたのなら、可能性はゼロではない」 と相模さんが言うから途中で止まった。 顔を上げると、ルームミラー越しに彼の双眼と視線が混ざる。
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