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「君の体調はよくなったようだな」 「は、はい。おかげさまで、蓮さんが献身的にいろいろとしてくださったので」 「あいつが料理をすると聞いた時は驚いたが、ちゃんとできていたようだな。刀を振り回すような悪ガキだったのが」 「な、なかなか上手なんですよ、蓮さん」 「君の教え方がよかったのだろう。あいつは嫌だと思えば全くしない」 厭味も脅迫もなく、意外とすらすらと会話が続く。 何より、景虎さんが父親の顔をしていた。 蓮さんの実の父ではあるけど、もっとドライな関係だと思っていた。 でも、蓮さんのことを突き放す言い方はしない。ぶっきらぼうだけど、ちゃんと蓮さんのことを深く観察して理解しているような響きがあった。 イメージが狂ってくる。 悪い父親像だったのに。私を翻弄するため?でも、有利なのは向こうだから、演技の必要なんてないはず。本当は……。 「お待たせいたしました」 ちょうど料理が運ばれてきて思考が中途半端に切れた。 米と野菜、ゆで卵を和えられたサラダ。淡い黄色のオムレツの脇に添えられたトマトとモッツアレラチーズのカプレーゼ。フォカッチャとロゼッタの二種類のパン、華奢なカップに入れられた野菜の冷製スープ。 二人掛かりで次々と料理を並べていき、最後にコーヒーと紅茶を全体が美しく映える位置に置かれた。 白い丸テーブルが料理で埋め尽くされて一気に華やぐ。 絵具で色鮮やかに彩られたキャンバスみたいだ。 「後ほど、ジェラートをお持ちいたします」 これにまだデザートがつくの!? 思わず目を丸くする私にホテルマンは微笑んで礼をすると去っていった。 「す、すごいボリュームですね」 「朝は食わんとやる気が起きない。君は無理はしなくていいぞ」 景虎さんはさっさとナイフとフォークを手にして食べ始める。 私も「いただきます」と小さく言ってカトラリーを持った。 出来立てのオムレツにナイフを入れるとすっと刃が通る。プルンとした卵を零さないようにフォークで掬って口に運んだ。 お、お、おいしい!! 口に入れた瞬間、噛むことなく口の中でまろやかに溶けていく。 バターと塩味が絶妙な塩梅で、味付けがシンプルなだけに卵の濃厚さが引き立っている。 なんだこれ。オムレツだけど、私の知るオムレツじゃない。ふわふわすぎる! 感動していると、「くっ」と前から声が聞こえた。 料理から顔を上げると、景虎さんが肩を震わせて下を向いている。 手の甲が額に当てられてよく顔は見えないけど、口元が弧を描いている。 わ、笑っている!? マフィアのボスみたいな人が笑いを押し殺している光景に、こちらは虚をつかれて逆に何も反応できない。
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