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ただただ凝視するしかない私にやがて景虎さんはゆっくりと顔を上げた。 鋭かった眦が下がって口元同様に笑っている。 「君は本当にわかりやすいな。初めて会った時もそう思ったが、よく顔に出る。駆け引きする気も失せるな」 「す、すみません」 「いや、腹の探り合いをしなくて済むから楽だ。それに美味そうに食べる女はいい女だ。長所だよ」 そのフレーズに一瞬既視感を覚える。 そうだ、蓮さんにも同じようなことを言われた。 彼が倒れて看病して泊まった時、朝ご飯を食べている私を見て言ったことを思い出す。 外見は似ていないけど、親子なのかところどころ感性が似ている。 しかも、蓮さんにも『唯は顔にすぐ出る』って言われた。 そ、そんなに? 笑われるほどなのかと思うと、途端に恥ずかしくなって顔を押さえた。 動揺と羞恥でわかりやすいくらい頬が熱を放っていた。 「あ、その、あまりに、おいしくて……」 「それならよかった。俺は食事だけは毎回自由に楽しむようにしている。生きている中で限られているからな」 「そこは蓮さんと逆ですね」 「あいつは余裕がなくて忙しない」 景虎さんは笑みを収めてトマトを咀嚼した。 蓮さんは食事に執着しない。 昔からそうだったかもしれないけど、きっとこの十年間は違う。 「それは……あなたに勝つために一分一秒を惜しんで、力を注ぎ込んでいたんです」 つい口を突いて出てしまった。 こんな責めるような口調で言って、機嫌を損ねてしまうかもしれない。 でも、彼の努力を少しでもわかってもらいたくて抑えきれなかった。 景虎さんは口を閉じてから、やがてカトラリーを静かに置いた。 怒らせたかなと思って慌てたけど、違った。 景虎さんは席を立つ素振りもなく、ただどこか憂いを帯びた表情で豪奢な庭へと視線を向けた。 「元々勝てる勝負ではなかった」 「え?」 「アパレルのような小売り業とホテルや不動産業では儲かる値が違いすぎる。転けたらこちらも多額の負債を負うが、不利な勝負なのは最初から目に見えている。あいつもよくわかっていたはず」 「そんな……そんなのって」 「十年、自由な時間をやっただけだ」 結果が分かりきった出来レース。まさにそんな響きだった。 彼への慈悲なのか、単純に酔狂からなのか。 ただ手のひらで操られていただけと言われているようで、悔しくて唇を噛む。 「それでも……蓮さんは最後まで諦めていなかったと思います」 「そうだな、俺も正直ここまでやるとは思っていなかった」 予想外に、率直に同意された。 お世辞でも何でもなく、本心が漏れ出たような呟きに近い声だった。
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