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み、見られた?
いや、電気落としてて見えなかったかもしれないし!
あわあわと脳内で焦る私を前に佐野らしき人物は真顔のままだった。
だけど、ゆっくりと視線を横の猫へと移す。
「ルーク、いい加減にしろ」
初めて開いた口から出てきたのは記憶通りの涼やかな声。
駄目だ、ますます佐野だ。
認めたくはないけど、これはもう確定だ。
「お前、物持ちいいな」
「へ?」
「高校ジャージ。てか、全然変わってねぇな」
佐野は私の姿をまじまじ見つめてからふっと鼻で笑った。
その皮肉めいた笑みは十年前と同じで、当時の憎い記憶と相まって身の毛がよだつ。
私が硬直している間に佐野は子猫を片手で抱き上げた。
「じゃあな」
それだけ言い放って踵を返す。
思わず目で追うと奴はパタパタとサンダルを鳴らして隣の部屋に入っていった。
バタンと隣の玄関が閉まるまで呆然と立ち尽くしてしまった。
やっぱり佐野だ。いや、どうして、隣に……。
私はそこでようやく脳内の回路が繋がって急いで部屋に戻ると、そのままテーブルの上で充電していたスマホに飛びついた。
勢いのあまり操作を間違ってしまいそうになるけど、アドレスから目的の人物を呼び出す。
コール音は五回ほどで終わり繋がった。
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