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それから佐野が部屋着に着替えている間に、私は自分の部屋に再び戻り、買い置きしていたゼリーを持ってきた。
仕事で遅くなった時、夕飯を食べる気力がなければゼリーだけで済ませたりするからいつも何個かストックしていた。
「ゼリーとかなら食べられそう?薬飲む前に少しだけ胃に入れといたほうがいいと思う」
ベッドに腰を下ろす佐野にスプーンを添えて出してみる。佐野はゆっくりと受け取った。相変わらず怠そうな手つきだがゼリーを一口、二口と含んでいく。
半分ほど食べたところで彼は持ってきた風邪薬を呑むとベッドに横になった。けほっと咳き込む姿に思わず背を摩る。
「病院行く?」
救急なら日曜の夜でもやっているだろう。市販薬も劇的に効くわけではない。あまりつらいなら早めに診てもらうべきだ。
「いや、日曜だしもう夜も遅いからいい。明日行くよ」
余裕ぶって少しだけ口角を上げる。でも、青ざめた顔色だから余計に痛々しく見える。私は布団を肩まで引き上げた。
「ごめんな」
「いいよ、これくらい。大したことしてないし」
「これもそうだけど、飯。奢る約束」
「そんなのまたいつでも行けるじゃん。今は治すことが一番だよ」
こんな時に謝るなんて律儀にもほどがある。元々私のせいで風邪を引いたようなものなのに。
でも、私、何もできない。
薬を飲ませて、水とスポーツドリンクは枕元に置いたけどそれ以上やれることがない。
うつらうつらと瞼が揺れる佐野を前に無力感に苛まれる。
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