理想と現実

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「もしもし?」 「大沢くん!なんで黙ってたの?」 「あー、もしかして宗介と会った?」 私の語気の荒さなど気にもせず暢気な口調が返ってくる。 「だって斎藤、部屋気に入ったみたいだったし」 「いや、だからって普通事前に言わない?」 「忘れてた、ごめん。美晴にも言ってねぇし。でもいい部屋だろ?大家さんもいい人だし」 「そ、そうだけど」 南向きの窓、角部屋二階、築数は古いけどリノベーションされて内装も綺麗でキッチン広めの1LDK、家賃は破格。 これだけ揃っている駅近物件は東京に早々ない。 でも、私が佐野をどれだけ敬遠しているのか同じクラスで過ごしてきたのだから感じとってると思うんだけど!? それを黙っているなんて!!せめて、ちらっと小耳に挟ませてくれてもよかったじゃないの? 苦言をこぼし掛けた時、電話の向こうからため息が漏れ聞こえてきた。 「そんな嫌がらなくても別に宗介が隣でもいいじゃん。見知らぬ他人よりも安心だろ」 「そ、そうだけど」 「あいつ、悪さしないから。むしろいい番犬になるよ。何かあれば助けるように言ってあるし」 「はい!?」 「だから仲良くな。ケンカは駄目だぞ」 茶目っ気たっぷりに言われるともう何も出てこない。 佐野が私を助けるとかあり得ないと思うんですけど。 と言う前に電話の向こうから「お風呂空いたよー」と美晴の声がした。 「わかったー。じゃあ、斎藤そういうことで」 大沢くんは無情にも一方的に通話を切った。
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