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空しく電子音が鳴るスマホを力なく床に降ろして、私は力なくカーペットに倒れ込んだ。
入居して一日目にして、宿敵との再会。
しかも、ジャージ姿を見られた上に、私の趣味を知られたかもしれない。
これは悪い夢じゃないのか。
そう思いたくても、やはり夢ではなかったようで。
一晩沈んだ心で過ごし、憂鬱なまま朝を迎えた。
寝不足の顔で出勤しようと玄関を出たところで、隣の部屋から佐野が出てきた。
「あ」
思わず口が開く。
スーツ姿の佐野もこちらに気づいて顔を向ける。
朝一で、心の準備が出来ていなかった私は、しばし言葉を失って見つめあってしまった。
「お、おはようございます」
「はよ」
ぎこちなく挨拶すると、気怠そうに端的な応答がある。
機嫌が良くなさそうだけど、無視をする気はない様だ。
といっても、気まずい。
元々、男性が苦手なうえに、高校時代それこそ一番怖かった魔王のような男。
でも、向かう先は同じ駅だし、ここで変に追い抜かしたら失礼すぎるので必然的に並んで歩くことになる。
知り合いにしては不自然に開いた距離と、重い空気に私は耐え切れずに口を開いた。
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