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私はルークを佐野のいる部屋に戻してから、渋々ドアの施錠を解いて開けた。
「こ、こんにちは」
恐る恐る顔を出すとそこにはやはり戸坂真央がいた。営業スマイルを浮かべるも相手が恐ろしいほど真顔ですぐに引き攣る。
「外出先から直帰なの。佐野さん風邪だっていうから気になって寄ってみただけ」
「そ、そうなんですね。さ……そ、宗介くんは今寝ているので、その……」
「そう」
うっかり『佐野』と呼んでしまいそうになって言葉に詰まったけど、相手は気に留めもしなかった。ほっとしたのもつかの間、
「ちょっといい?」
と顎で軽く外を示されてぎくりと肩が震える。
嫌だ。
でも、ここで呼び出しを断れるわけもなく、私は佐野のサンダルを履いて外に出た。ハイツの廊下の手すりを持って、すっかり花が散った葉桜の木を前に戸坂さんは立つ。
「一昨日、佐野さんに怒られた」
「へ?」
消えるように呟くように言った戸坂さんに私は間抜けな声を返す。
「あなたのこと。『裏でいびってんじゃねぇぞ』って」
さ、佐野!
同じ職場の、上司の娘に言ってしまっていいのか。
私はパニックになりながらどうにかフォローしようとしたけど
「それを謝りたくて。まさかあなたがいるとは思ってなかったけど」
「そ、そうですか」
向こうがしおらしく謝罪してきて虚を突かれる。
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