気持ちの比重

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顔の角度を変えた時、彼の眼鏡のフレームが少し頬に当たる。閉じていた瞼を上げると彼の顔が離れた。 「ごめん。当たったよな」 そう言いながら眼鏡を外してテーブルに置く。 「大丈夫。眼鏡なくて見えるの?」 「そんなに悪いわけじゃないから見えるよ。ただ乱視が強いから多少ぼやけるけど」 そうなのかと思いつつ、宗介君の眼鏡姿が好きだからちょっと惜しい気分になる。 コンタクトの時も彼の美しい顔を拝見できていいけど、眼鏡だとプライベート感が出て、素の彼を独占しているような気分になる。 「口紅ついちゃった」 とろりとした蜂蜜みたいな余韻に浸りながら、宗介くんの唇についた紅を指で拭う。それなのに、またすぐキスしてくるから拭った意味がないし、口紅もまた塗り直しだ。 それでも、甘んじて受けているのはやっぱり気持ちいいからで、きっと私の顔はだらしなく緩みきっていることだろう。 「なぁ、今日本当に仕事行くの?」 「うん、これでも店長だし」 私の言葉に少し寂しそうにする。それがもっと一緒にいたいって言ってるみたいでニヤけてしまう。 私だって、一日中一緒にいたい。土日祝が基本休みではないこの仕事の性が怨めしい。 「宗介くんは今日は何してるの?」 「 そうだな、最後の荷造りと昼間は暇だし髪切りに行ってこようかな。夜は会社の奴らと飲み会があって、俺の送別会兼ねてるらしい。しなくていいのに」 「そっか」 もうすぐ日本を発つことが現実として着実に近づいている。 胸にズンと鉛が詰まったみたいに重くなって、自ずと力ない返事になってしまった。
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