月に叢雲

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美晴は俺の言葉に肩を怒らせながら部屋の中に戻っていく。俺はその後に続いてドアを潜った。 玄関を入ってすぐのキッチン、その奥にリビング。 間取りはよくわかっている。 靴を脱いで一直線にリビングに入ると斎藤がローテーブルに突っ伏していた。 俺の気配を感じて微かに首が動く。 腕の隙間から見えた目は赤く泣きはらしていて、メイクがぼろぼろに滲んでいた。 普段の身ぎれいにしている斎藤の面影がなくて内心ビビる。 「お、大沢くん......」 「さ、斎藤、どうした?」 「佐野が唯に何も言わずに勝手に引っ越したんだってば!昨日、キレるだけキレて!」 隣の美晴が死にそうな斎藤に代わって説明し始める。俺は眉根を寄せた。 「キレる?お前たち上手くいってたんじゃないの?」 「き、昨日、私が真鍋さんの車で送ってもらったから……」 「真鍋め!昔からあいつに関わるとろくなことないんだから!あいつの選ぶ女は最悪だ!」 「ま、待って。話が見えないって」 美晴が俺の知らない人物にキレだすからこんがらがってくる。 一から説明を求めると斎藤がゆらりとテーブルから身を起してぽつぽつと話しだした。 宗介と付き合いだしたこと。 昨日、仕事場でトラブルがあって幼馴染兼上司に車で送ってもらったところをあいつと遭遇して修羅場になったこと。 仲直りしようと思って帰ってきたら引っ越ししていたこと。 宗介の引っ越しが寝耳に水だったらしく、ショックだったこと。 たまたまそこに美晴が別件で連絡したら、斎藤が取り乱していたから慌てて駆けつけた。 という流れらしい。
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