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「さ、佐野くん、怪我した!?」
どうやら、俺が負傷して項垂れていると思ったらしい。
俺の前でおろおろする彼女にちょっと笑みが出た。
俺に対して特別な感情がないのはわかっているけど、好きな子から心配されるのは嬉しい。
さっきまで自己嫌悪に苛まれていたくせに、自分でも現金だと思う。
「いや、俺は大丈夫。そっちは?クッションも何もなかっただろ。腰痛めたりはしてない?」
後部座席は鉄だからあの衝撃をダイレクトに受けただろう。
目立った怪我がなくても、どこかを痛めている場合もある。
斎藤は首を横に振って両拳を身体の前で力強くぎゅっと握る。
「平気!私、安産型ってよく言われるし頑丈だから!」
安産型?
若干何か違う気もするが、俺に気を遣わせないように力説してくれたのだろう。
とにかく無事ならよかった。
俺は自転車から降りて、下って来た階段を見上げた。
距離は長くないが、何分傾斜がかなりある。
石でできた階段は一段一段が狭くて高い。
そこに落ちていたら一貫の終わりだったなと改めて思うと、ぞっとした。
「けっこう急なとこ下ってきたな」
「そうだね、学校とは違う方向に来ちゃって......あ、自転車は大丈夫?」
「あー、うん。大丈夫そう」
自転車から降りて確認してみると特に故障はなさそうだった。
松中号は年季が入っているが、作りは頑丈でよかった。
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