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葛城は唯を見て一度唇を噛み締めると、俺をキッと睨んだ。
「唯をこれ以上泣かせたら許さないんだからね!覚えてろ!」
葛城がむんずとたい焼きの袋を掴む。
中の箱が壊れんばかりの力で俺から奪い取ると大沢へ振り返った。
「帰るよ!」
「は、はい」
大沢が鞭打たれたかのように背筋を伸ばして、部屋に置いてあった二人分の鞄を引っ掴む。
葛城は唯に向かい直すとそっと手を握る。
「唯、何かあったらすぐ連絡してね」
「ありがとう、美晴。大沢くんも。あと、仲直りしてね」
「大丈夫、こんなのケンカにも入ってないから」
申し訳なさそうに瞳を揺らす唯に葛城は陽気に笑ってみせた。
俺には威嚇するように「これくらいで許されたと思うな」とたい焼きを持ちながら唸っていた。
葛城が部屋に上がった俺と入れ違いで玄関を出ていく。
去り際、大沢が俺の肩に手を置いた。
心配そうな眼差しに俺は軽く口角を上げる。
最も内心は全然余裕なんてなかったけれど。
大沢は何か言いたげな表情だったが、何も言わずに靴を履いて玄関を出る。
「またね」
軽く手を振る二人がゆっくり閉まっていく扉で姿が見えなくなっていく。
バタンと重い音ともに完全に姿も見えなくなって、外界と遮断された部屋は恐ろしいほど無音だ。
いや、やかましいくらい自分の心臓が拍動している。
他に音がない分それが如実に頭に響いて、また焦燥感を煽られる悪循環だ。
「......いろいろ、驚かせちゃったみたいだな」
とりあえず、何か喋らなければと思って口を開くと自分でも弱々しい覇気のない声だった。
けれど、唯にはちゃんと聞こえたらしく小さい頷きが返ってきた。
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