黒の魔女

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蓮さんの家でいい匂いのシャンプーやコンディショナー、オーデコロンまで使わせてもらった。 指摘された匂いがどれのことなのかわからない。 いや、違う。 どこでこの匂いをつけてきたのかが、問題なのだ。 「なんか、髪とか雰囲気違うし。どこか行ってたの?」 案の定、宗介くんが核心をついてくる。 「昨日は、社長の弟さんに借りていた靴を返しに行ったら熱で倒れてて看病のために泊まったの。あ、でもね、その人はグレーゾーンなの!だから、やましい事なんて全然なかったよ!」 と笑顔で言えたらどれだけ楽だろうか。 多分、言ったら宗介くんは絶対零度の表情になって 「はぁ?意味わかんねぇんですけど?」 と私の言葉を一刀両断するだろう。 あの真鍋さんとの事件よりも怒りが大噴火する気がする。 「え、えっと、友達の家に昨日泊まったの」 オブラートに包んで言ってみる。 正確には蓮さんは友達ではない。 恩人だ。 本当に後ろ暗いことなんてなかったのに、揉めるのはわかっているから嘘をつかないといけないジレンマに苛まれて冷や汗が出る。 きっと正面に宗介くんがいたら、顔色から全てバレていたからこの体勢でよかった。 でも、これからメイクとか教えてもらうのに隠しているのはどうなんだろう。 それこそちゃんと今、宗介くんに説明して理解をしてもらったほうがいいのではないのか? 焦って冷静な判断がつかなくなってくる。 「ゆかりちゃんって子のところ?」 宗介くんが唐突にゆかりの名前を出した。 一瞬驚いたけど、何度か友達の話をする時にゆかりの名前を出したことを思い出す。 「へ?あ、そう!ゆかりの家にお泊りして、シャンプーとかコロンとか使わせてもらったからかな!ゆかりは女子力高くて、髪の毛もしてもらったの」 きっかけをもらうとスラスラと嘘が連なって出てくる。 すぐに返答がなかったから嘘だとバレたかなと思って肩に力が入った時、宗介くんがハーフアップにした編み込みを指で撫でてきた。 「へぇ、やっぱ女は器用だな。あ、唯が不器用とかいう意味じゃないから」 「う、うん、わかってる」 実際、不器用なほうだし、気を遣ってフォローしてくれる彼にむしろ罪悪感が押し寄せてくる。 でも、ここまで来て今更「やっぱり嘘なの!」とは言えない。
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