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私は涙を手で拭うと眉根を寄せる。
「というか、なんでお兄ちゃんずっといるの?」
「そんなこと言わないであげて。唯ちゃんが帰ってくるまで心配で待ってたのよ」
「ちょ、違う!」
私に麦茶を入れてくれる志帆さんにお兄ちゃんが焦って手を振る。
顔が赤くなっているから、照れているようだ。
そこまで過保護になったのは、あの時以来だ。
私が高校生の時に夜道でバイクに引きずられた時、さすがに心配をかけて私が塾などで夜歩くことがあれば迎えに来てくれていた。
「よくわかんねぇけど、その人に今送ってもらってんだろ?」
「う、うん」
「じゃあ、俺がこれから迎えに行く。身内がするほうが当たり前だろ」
ぼんやりと昔のことを思い出していたら、お兄ちゃんが昔と同じようなことを言い出すから思わず目を剥く。
「え!?で、でも、もう一週間も何もないからそろそろ一人で帰れると思う」
「じゃあ可能な限りな。早番とかの日は一人で帰ってくればいいし、俺が無理な時は、佐野......お姉さんに迎えに来てもらえ」
「そうね。私も引きこもりがちだから散歩がてら迎えに行くわ」
成人していい大人になったというのに、お迎えがいつまでも続くのはやはり恥ずかしい。
ただ、相模さんに送ってもらうのもそろそろ期限だと思っていた。
迷ったけれど、お兄ちゃんの提案はひとまず受け取ることにした。
兄妹なら融通が利いて、あと二、三回何もなければすぐに迎えもなくなり、いつも通りの生活になる。
そう思ったのだ。
蓮さんには、その後メッセージを送った。
先ほどのことへの謝罪と相模さんのお迎えはもう大丈夫だと送った。
思いのまま書くと、どんどんさっきの謝罪で長くくどくなっていって、干渉するなと言った蓮さんの言葉を結局無視しているような気持ちになる。
結局すごく端的な用件のメッセージになってしまった。
そのメッセージはすぐに既読がついたけど、返事が来たのは一時間後。
『わかった』
それだけだった。
自分のメッセージも淡泊だったのだから別におかしくないけれど、その文字の向こう側の彼を想像するとやはり最後の苛立ちの中に苦しみが混ざった顔が浮かんできて、なかなか寝付けなくてベッドの中で何度も寝返りを打った。
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