呪い

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「とりあえず必要なものだけ持って行きましょう。あとはまた私が取りに来てもいいし」 志帆さんの指示で全体が動き出す。 巻き込んでしまった真鍋さんには先に帰ってもらうことにした。 もう時計は明け方近いし、本社勤めの彼は朝礼が九時だ。 帰ってすぐ寝たとしても二時間も睡眠を取れない。 「俺は大丈夫。わりと休みの前の日とか一晩中映画見てたりしてるし」 「お前、寂しいな」 「同じ独り身のお前に言われたくない」 事件のことなどなかったかのようにお兄ちゃんと軽快な掛け合いにほっとする。 ずっと謝り続ける私に「唯ちゃんが無事でよかった」と笑顔を返してくれる姿は幼馴染の悠人くんの顔で、涙腺が壊れているのかまたポロポロ涙が出てきて収拾がつかない。 結局、「唯が泣き止めねぇからさっさと帰れ」とお兄ちゃんに背を押されて真鍋さんは帰っていった。 ビニール製のボストンバッグに着替えや化粧品、貴重品などを詰めてチャックを閉じる。 「ルーク」 それまでずっとベッドの上で大人しく寝ていたルークは志帆さんの呼び声にピクリと耳を立てる。 それから彼女がキャリーケースの口を広げると、ルークはベッドから降りてすんなりとその中に入った。 あれだけこの部屋から出るのを嫌がっていたのが嘘みたいだ。 ルークはケースのチャックを閉じる前に私を見上げて小さく鳴いた。 何だか、こうなることがわかっていたからルークがわざわざ抜け出して、ずっとこの部屋にいてくれたみたいに思えて。 私は小さな恩人の頭を「ありがとう」と撫でた。
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