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部屋を出ると、私たちは始発がまだだったので駅前でタクシーを捕まえた。
三駅ほどの距離で早朝の空いた道だから、ものの十数分で着く。
「斎藤くんはこのまま乗って帰ったら?これから三日間、出張でしょ?」
「あ、ああ……そうなんだけど」
助手席のお兄ちゃんからちらりと私を見る。
私のことが気にかかるらしい。
大丈夫と言おうとしたけど、何かあった時にお兄ちゃんがいないと思うと、不安に顔が曇っていくのが自分でもわかった。
そっと冷んやりとしたものに手を包まれる。
横から志帆さんが手を握ってきていた。
「大丈夫。唯ちゃんは私が何があっても守る」
志帆さん特有の静かで、清らかな水のように澄んだ声。
お兄ちゃんは志帆さんを真っ直ぐ見つめる。
「頼んだぞ」
お兄ちゃんの言葉を受けて、志帆さんが力強く首肯する。
私と志帆さんはお兄ちゃんを残してタクシーを降りて、朝日に照らされた道を走り去っていくテールランプを見送った。
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