2/24
3888人が本棚に入れています
本棚に追加
/1502ページ
私と志帆さんは車から降り立つと、向かいから差す西日に目を細めた。 ひと月生活していただけに少し多めの荷物。 相模さんが車で送ってくれるという厚意に甘えさせてもらったから、一度に運ぶことができた。 「何かあればいつでもご連絡ください」 「……ありがとうございます」 わざわざ外に出てドアを開けてくれた相模さんに私は泣いて浮腫んだ顔を下げた。 蓮さんと話し合った後、すぐに荷造りを始めた。 衣類と化粧品が大半だから、そこまで纏めることは大変ではない。 志帆さんも手伝ってくれたから、一時間もあれば全て纏められた。 その間、ずっときなこは私に寄り添っていた。 移動するにもついてきて、足にぴったりとくっつく。 それも玄関まで。 私が靴を履いてもついていこうとするから、蓮さんが抱き上げた。 きなこは蓮さんを見上げたけど、大人しく腕の中に収まっていた。 「じゃあ、唯のことよろしくね」 「ええ」 蓮さんと志帆さんが会話をしている。 頭の中は全然整理できていないのに、身体だけは動いて物事が進んでいく。 でも、これで最後かもしれない。 次に蓮さんと会える保証はない。 ぼうっとする頭でもそれだけは理解している。 蓮さんが志帆さんからこちらへ顔を向けた。 心臓がドキリと音を鳴らす。 彼が何か言う前に、私は慌てて口を開いた。 「あ、あの……」 「どうした?」 「えっと、きなこ……きなこにまた会いに来てもいいですか?」 見え透いた口実で、きっと誰もが気づいている。 それでも、蓮さんは一拍の沈黙後、微笑んでくれた。 「いいよ。いつでも会いにおいで」 レッスンとは違って、儚い約束。 何の効力も持たない。 それを結ぶしかできず、私は蓮さんに深く頭を下げて玄関を出た。
/1502ページ

最初のコメントを投稿しよう!